ハーバード大学のシャー先生によるセミナー

 2016年10月6日に本学経済学研究棟にてハーバード大学上席科学研究員のイクバル・シャー博士は「人口中絶に関する法律の自由化後の人口中絶及び避妊」という題でセミナーを行いました。
シャー先生は、人口中絶の概念や歴史を概観し、データ源やデータの限界、人口中絶・避妊・出生における最新の動向についての簡潔に紹介した上で、人口中絶を合法とする法律が導入された後の人口中絶と避妊の変動に焦点を移し、そのテーマに関する先行研究の成果や既存のデータについて話されました。妊娠や出産を防ぐ上で中絶か避妊という二者択一の選択があるわけですが、人口中絶が自由化されるとその件数が一時的に増えるとはいえ、近代的な避妊方法の利用が増大していくにつれて、人口中絶が減少するという指摘がなされました。近代的避妊方法に関しては、人口中絶が合法化されると様々な避妊方法の使用がしばらく上昇し続けるか、本来使用レベルが高かった場合はそのレベルを保ち続ける、このことが証拠によって示されているというこ とです。シャー先生は法律自由化後の人口中絶のさらなる研究、及び人口中絶減少の明確な原因究明を目標とする、人口中絶と避妊使用の間の相互作用の多面的研究を呼び掛けました。
 また、シャー先生は出産後の家族計画についても講演を行ってくださいました。その報告は「低・中収入の国々における出産後家族計画」という題目でしたが、このテーマはシャー先生が最近ハーバード大学で取り組んでいらっしゃる研究プロジェクトの主なテーマです。報告の中でシャー先生は先行研究の成果を概観し、16か国の人口・健康調査(DHS)データを分析した上、次の問題点を取り上げました。1) 出産後は家族計画に関する満たされないニーズあるいは需要がほかの時期と比べて著しいものなのか、2)無月経状態ということで女性は出産後に避妊を行うことを止めるのか、3)授乳期間中に近代避妊方法の使用が減少するのか、4) 家族計画プログラムはどのような結果をを招いているのかという4点です。シャー先生がこの報告で紹介したデータは次のことを示しています。まず第一、満たされない出産後の避妊への需要は、無月経と禁欲を考慮に入れれば、ほかの時期とは変わらないが、妊娠の健康への影響は大きい。第二、出産後、月経が戻ると避妊方法の使用が上昇することは多いが、月経が戻らないうちに不妊手術を行うなど、避妊を実施するケースも少ないとはいえ、無視するわけにはいきません。避妊方法の選択については、月経のある女性では、口径避妊薬以外、授乳が避妊方法の使用に与える影響は一部の国のみに限られていて、小さいです。サブサハランアフリカやインドのような、授乳による無月経期間が12か月間に及ぶ国では、長期的効果を発揮する可逆性避妊方法の推進及び出産6か月後の避妊に関する助言の提供が重要だということです。その際、女性たち自身の避妊開始のタイミングに対する見方や妊娠のリスク、授乳の避妊効果などに関する意見に十分耳を傾けるべきです。
 さらに、同日シャー先生は「変化するヨーロッパのリプロダクティブヘルスのプロフィル」についての発表も行いました。その報告は性と生殖に関する健康や出生率をめぐる動向を概観したものです。ヨーロッパでは、近代避妊方法が広まらないう
ちに出生率の低下が見られましたが、ヨーロッパ諸国の2014年の出生率は、いくつかの例外を除いて、だいたい1980年より低いレベルに達しています。少子化、晩婚化、私生児の増加が進んでおり、結婚率が下がるとともに第一子出産年齢が上がっています。シャー先生の発表で、これらの現象の要因に関する理解を深化し、より効果的な施策を可能にするために、文化的・社会的文脈を重視するさらなる研究が必要だという指摘がなされました。