山口先生による連載が『日経』に掲載

本研究プロジェクトの研究分担者、山口慎太郎先生による連載記事が『日経新聞』に掲載されました。その主なテーマは幼児教育の経済的・社会的効果です。7回から成るこの連載は729日から86日まで「やさしい経済学」のコラムで「人材投資としての保育」というタイトルで掲載されました。

山口先生は、幼児教育が子供を幸せにするのみならず、忍耐力や協調性を高めることによって犯罪への関与を減らし、犯罪が生む被害及び警察の活動・司法・収監の費用など、社会的負担も軽減することを指摘しています。さらに先生は、幼児教育が就業率や年間収入を上昇させ、福祉利用率を下げるなど、大きな経済的な効果を生み出していることを示すアメリカの研究を紹介しています。他方、0-2歳児を保育園に預けるほど知能発達にマイナスの効果が出るとの結果を得た欧州の研究もあること、つまり、乳幼児にとって養育者との一対一の時間が重要であることを指摘しています。そして西洋では、子供を保育園に預けた親が仕事によるストレスを子供にぶつける傾向があるという意図せざるマイナスな効果を確認した研究もあるとのことです。

国の事情によって幼児教育の効果が異なるため、山口先生とその研究グループは、21世紀に入ってから生まれた8万人の日本人子供を追跡する厚生労働省の「21世紀出生児縦断調査」が提供するデータをもとに、日本での幼児教育の効果を分析しました。その結果は連載の後半において紹介されています。それによると、日本では、家庭環境に関係なく、子供の言語発達へのポジティブな影響が確認されたそうです。また、経済的に恵まれない家庭では、子供を保育園に預ける母親の幸福度が比較的高くなっていることも明らかになっています。これはおそらく育児のストレスが軽減され、仕事の確保によって将来への経済的不安が減ったことによる効果であろうということです。

連載の最後に、山口先生は近年の保育に関する政府政策に触れる中で、保育園拡充政策が、子供を持つ女性の労働参加に対し一定の効果を発揮しているが、今度実行される予定の、幼児教育の部分的無償化が待機児童の増加や教育の質の確保に関する問題につながり得ることを指摘しています。教育の質は決定的に重要であるため、山口先生は専門家による幼児教育の質へのさらなる注意や配慮を呼び掛けています。また先生は、幼児教育の良好な効果について情報を有しない家庭や教育に対する意識が低い家庭の問題を解消する上で義務教育年齢の引き下げも検討に値すると考えています。