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プロジェクト紹介

研究課題名

日本学術振興会科研費(特別推進研究):人文・社会系

「多様な個人を前提とする政策評価型国民移転勘定の創成による少子高齢化対策の評価」

研究概要

研究の背景・目的

 世界各国で急速に進む高齢化社会における新しい世代間所得移転分析ツールとして国民移転勘定 (National Transfer Accounts (NTA)) は、IMF・世銀・国連など国際機関で幅広く採用されている。NTA は、各時点における世代間の所得移転の平均的姿を私的・公的の両面から国際比較可能な枠組みで捉えるという点で画期的であるが、本研究では移転の平均的姿だけでなく、家族構成、その健康状態、社会・経済状態の違いによる世代間所得移転の多様性を捉えつつ、ライフサイクルを通じた所得移転を捉える。さらに子育て・介護などの時間の移転を捉える新たなNTAを創出する。また、政策変更に対する個人や企業の反応を織り込んだ政策分析を行い得る枠組を創出し、その枠組みを用いて様々な少子高齢化に対する政策を評価する。

研究の方法

 本研究は、これまで消費や労働所得などの内生変数の年齢別平均額といういわば誘導型のみ分析してきたNTA の枠組みに、これまで欠けていた家計と企業の構造モデルを導入し、それにより個人と企業の多様性を捉える枠組みを確保する。家計の構造モデルとして、一定の社会政策の下、各年齢における消費、労働だけでなく、子育てや介護などの時間を選択するモデルを、また企業の構造モデルとして年齢別の労働需要を構築し、推定する。それらを用いることで、所得だけでなく、時間のライフサイクルを通じた世代間移転を私的側面と公的側面双方から捉える。さらにこれらのモデルを世代重複モデルに接合することにより、これまで捉え切れていなかった世代間、世代内における所得と時間の双方を含む私的・公的移転に関する現実の新たな側面を明らかにする枠組みを構築するだけでなく、政策分析のツールとしてのNTA を創出する。即ち、本研究は、これまで消費や労働所得などの内生変数の年齢別平均額といういわば誘導型のみ分析してきたNTA の枠組みに、これまで欠けていた家計と企業の構造モデルを導入し、それにより個人と企業の多様性を捉える枠組みを確保すると共に、それらの構造モデルを、政策変更が個人や企業の行動に与える影響を捉える枠組み(即ち、ルーカス批判に答える枠組み) としても活用する。そしてそれらの構造モデルを一般均衡モデルとしての世代重複モデルと接合してNTA 分析を行うことにより、社会全体における多様な家計における所得と時間などの移転の様相を捉えるだけに留まらず、さらに少子高齢化対策に対する家計や企業の行動変化を織り込んだ政策評価を行う。

期待される成果と意義

 本研究では現状のNTAに欠けている、多様性を捉える枠組み、政策に対する家計や企業の反応を捉える枠組みを創成する。家計や企業の行動を明示的にモデルすることにより、年金受給可能年齢の引き上げや、企業に対する女性や高齢者の雇用促進政策などの評価が可能となる。またこれまでクロスセクションで行われてきたNTA分析に、ライフサイクルという観点を明示的に取り入れることにより、資産形成と所得移転とを明示的に区別して捉えることが可能となる。即ち、生涯を通じてどれほど移転を受け、生産し、どれほど消費し、他の世代にどれほど移転を行い、最終的に再び、どれほど移転を受けているのかを明らかにする。このことにより、これまで着目されてきた所得分布を用いて捉えられてきた不平等度を生涯所得の分布という観点から捉えることが可能となる。これらの分析は年齢により異なる消費内容を反映させた価格指数を用いて行うことにより、これまでよりより有効な分析となる。さらにこれまで着目されてきた所得の世代間移転に加え、新たに、子育てや介護などを通じた時間の世代間移転も捉える。このことにより、特に女性の労働市場参加がどのような要素に依存しているかについての知見がより深まることが期待される。
これらの分析の基礎データとして収集する「くらしと健康の調査」と「仕事と家族に関する全国調査」は本研究にとって本質的であるだけでなく、できる限り迅速に公開するので、他の研究にとっても基礎データとして広く用いられることが期待される。

当該研究課題と関連の深い論文・著書

  • Ichimura, H., H. Hashimoto, S. Shimizutani (2009) “JSTAR First Results: 2009 Report,” RIETI Discussion Paper Series 09-E-047.
  • Heckman, J., H. Ichimura, P. Todd (1998) “Matching as an Econometric Estimator,” Review of Economic Studies, 65, 261-294.

研究期間

平成27年度-31年度

ホームページ等

ホームページ: http://www.ichimura-lab.e.u-tokyo.ac.jp/

プロジェクトオフィス (市村研究室): ichimura_supp@e.u-tokyo.ac.jp

プロジェクトリーダー: ichimura@e.u-tokyo.ac.jp

研究目的

本研究は、新しい世代間所得移転分析ツールとしてIMF・世銀・国連など国際機関でも解析手法として採用されている国民移転勘定(National Transfer Accounts(NTA))を、個人の健康状態、家族関係、経済状態などの多様性を捉えつつ、政策変更に対する個人の反応を織り込んで政策分析が行い得る新たな枠組へと飛躍的に改善し、それを用いて様々な少子高齢化に対する政策を評価する。

NTAの限界

NTAとは世代間における所得移転の様相を数量的に捉える枠組みである。NTAは、世代間の移転を私的・公的の両面から国際比較可能な枠組みで世代間所得移転を捉えるという点で画期的であるが、次のような限界がある。

    1. 平均的側面のみ捉えている。同じ世代でも個人間には大きな多様性があるので,世代の平均を見るだけでは不十分である。所得・医療支出を含む消費パターンや生存確率が大きく異なる性別、学歴、家族関係、 健康状態などを考慮する必要があるが、そのような多様性を捉える枠組みがない。
    2. 金銭的な移転にのみ着目し、子育て、介護などの時間による移転や雇用不安など、非金銭的側面を捉える枠組みがない。
    3. NTA分析ではある年における財の生産(労働所得)とその配分関係(私的及び公的消費)を年齢別に捉えるが、ある世代が生涯を通じてどれほど移転を受け、生産し、どれほど消費し、他の世代にどれほど移転を行い、最終的に再びどれほど移転を受けているのかは明らかにされていない。
    4. 家計の分析に特化しているため、企業の労働需要についての分析ができない。
    5. NTAには前提となる構造モデルがないため、政策変更が消費や労働所得、子育て・介護時間などの内生変数の変更を通して全体としてどのような影響を世代間所得・時間移転などに与えるかを予測できない。即ち、NTAは政策変更が個人の行動に与える影響を織り込んだ政策評価をする枠組みとはなっていない。即ち、ルーカス批判に答えられない。
    6. 家計効用は名目の消費ではなく実質の消費で決まるので、計測すべきは名目値ではなく実質値である。

限界の克服

本研究では、このような限界を越える新たな枠組みを構築するため、以下の研究を行う。 内生変数として消費・労働に加えて子育て・介護など労働の移転を含む家計のライフ・サイクルモデルを構造モデルとして作成し、パネルデータの個票を用いて推定する手法を開発し、開発した手法を用いて実際に推定を行う。(上記A.--C.)

企業の構造モデルを作成し、生産関数を年齢などで労働を区別しながら推計することで、定年引き上げ、年金受給年齢引き上げ、高年齢者雇用安定法改正などの政策効果が評価できる枠組みを確保する。(上記D.)

それらの結果をさらに一般均衡モデルとしての世代重複モデルに接合し、NTA分析を行うことにより、政策に対する多様な家計や企業の反応を織り込んだ政策評価を、世代間の私的・公的両面にわたる所得・資産の再配分への影響を含めて分析することが可能となる新たな枠組みを創成する。 (上記E.) 

また、新たに構築された枠組みを用いることにより、様々な少子高齢化問題に対する政策を評価する。(上記E.)

このような分析を可能とするパネルデータを継続して構築し、さらに年齢別に大きく異なる消費内容を反映する新たな年齢別消費者物価指数の開発を行い分析に取り込む。(上記A.--C.及びF.)

これらを実現するため、NTAの測定にこれまでに利用してきた全国消費実態調査などの政府統計に加えて国際的にも実績のある2つの調査を継続実施し、利用する。1つは初回50歳から75歳を対象とした「くらしと健康の調査」(Japanese Study on Aging and Retirement (JSTAR))、もう1つは20歳から59歳を対象とした「仕事と家族に関する全国調査」(National Survey on Work and Family (NSWF))である。これらのミクロデータは家族関係や高齢者の健康状態など、多様性を捉える変数を含むが、これまでのNTAの測定手法をそのまま踏襲する為には数千万人程度のデータが必要であり、現実的ではない。そこで、このような多様性を捉える為、私的及び公的な所得・労働の移転を含む家計のライフ・サイクルモデルの外生変数又は内生変数として家族関係、健康状態など、多様性を捉える変数を導入し、パネルデータの個票を用いて推定する手法を開発する。また開発した手法を用いて実際に推定を行う。(上記A-C)

雇用不安といった、従来のNTAの枠組みでは捉えることのできなかった要素を取り上げることができることも構造モデルを用いる重要な利点である。現在、若年労働者は低賃金や不安定な雇用、長時間労働といった問題に直面している。世代毎の賃金や消費支出は直接金銭的計測が可能であるが、雇用の不確実性や長時間労働の弊害といった点を含めて政策評価を行う場合にはそれらを評価しうる構造モデルが必須となる。(上記B.)

年金支給開始年齢や支給水準の変更などにより、公的移転を変えた時、経済主体の行動変化によって私的移転も変化するが、企業の労働需要の変化を通じて労働市場均衡が変化しそのことが世代間の所得分配を変化させる効果も無視できない。年金支給開始年齢の引き上げや支給水準の引き下げは、高齢者の労働供給を刺激することを通じて高齢者及びその労働と代替的な労働者の賃金を引き下げる。また、政府は年金受給権の切り下げに伴う政治的な抵抗を和らげるため高齢者雇用を促進するための法政策を導入することが多い。少子高齢化対策は家計行動を変えるだけでなく、企業行動も変化させる可能性がある。例えば高齢者の継続雇用の法的義務付けなど企業にとっての外生変数の変化は高齢者への労働需要量を変化させるだけではなく、他の年齢層の労働需要量も変化させる。

従って労働需要の変化は労働市場均衡を通じて他の年齢層の労働所得を変化させることを通じて、私的移転を変化させる可能性がある。そこで本研究では家計行動に加え、企業の労働需要に関する分析を行う。(上記D.)

年齢別労働者の労働需要関数を推定するためには学歴・年齢・性別といった属性ごとの労働者数を記録した企業あるいは事業所のデータが必要である。そのような単一のデータセットは存在しないため、事業所単位でサンプリングした労働者ごとの教育水準、年齢、勤続年数、労働時間、賃金を記録する賃金構造基本統計調査と事業所単位の有形固定資産残高や売上高を記録する工業統計・商業統計・企業活動基本調査をビジネス・レジスターの共通番号をキーとしてマッチする。マッチングの結果として推定に必要な情報をすべて含む事業所・企業データセットを作成する。この事業所・企業データセットをもちいて年金制度の変更によって引き起こされた市場賃金の変化や高齢者雇用を取り巻く法的環境の変化に対して企業が属性別労働者数をどのように変化させることで対応したかを検証し、その作業を通じて労働需要関数を明らかにする。

従来のNTA分析においては家計や企業の構造モデルを前提としていない為、政策が変更された場合、家計や企業の行動がどのように変わるかについて予測することが出来なかった。本研究では、家計のライフ・サイクルモデルに基づく構造モデルと企業の年齢別労働を含む生産関数を基本とする構造モデルを導入する。これらの構造モデルを、ミクロデータを用いて推定することにより、多様な家計の行動が政策によりそれぞれどのように変更されるのか、また、企業の労働需要行動がどのように変化するのかを予想することができる。さらにこれらを一般均衡モデルとしての世代重複モデルに接合しNTA分析を行うことにより、政策に対する家計や企業の反応を織り込んだ上での長期的・マクロ的含意を含む(ルーカス批判に答え得る)政策評価を可能とする新たな枠組みを創成する。これにより私的・公的両面にわたる世代間所得・資産の再配分への影響を、若年労働者と高齢労働者の代替、補完関係を通したものを含めて分析し、さらに子育て、介護など、時間による世代間再配分を分析することが可能となる。(上記E.)

新たな枠組みを実現して行く上で、将来に渡る期待形成に関しては合理的期待形成に留まらず、様々な期待形成モデルを考慮し、またモデルを解く際に置かれてきた定常性の仮定などについても再吟味する。また、従来の消費・労働所得の年齢別誘導型で得られている実証結果はできる限り保存する手法を考案する。

本研究の特色と意義

研究の特色

本研究の特色は、NTAの計測に、労働と所得の私的・公的移転を含む構造モデルとしてのライフ・サイクルモデルと企業の構造モデルを導入し、世代重複モデルを用いるという新たな発想に基づくNTA分析手法を開発することである。このことにより、これまで捉え切れていなかった世代間、世代内における多様な私的・公的移転に関する現実の新たな側面を明らかにする枠組みを構築するだけでなく、政策分析のツールとしてのNTAという新しい地平を切り開く。

即ち、本研究は、これまで消費や労働所得などの内生変数の年齢別平均額といういわば誘導型のみ分析してきたNTAの枠組みに、これまで欠けていた家計と企業の構造モデルを導入し、それにより個人と企業の多様性を捉える枠組みを確保すると共に、それらの構造モデルを政策変更が個人や企業の行動に与える影響を捉える枠組み(即ち、ルーカス批判に答える枠組み)としても活用する。そしてそれらの構造モデルを一般均衡モデルとしての世代重複モデルと接合してNTA分析を行うことにより、社会全体における多様な所得と時間などの移転の様相を捉え、また、それらに対する少子高齢化対策の影響を評価しようとするものである。

研究の位置付けと意義

Auerbach等による世代重複モデルを用いた研究は、人口構造の変化と世代間の相違を捉える事を目的とし、主に公的年金や医療・介護保険制度などによる公的移転を分析する枠組みとして発展してきた。近年では個人や家計間の更なる多様性を考察するために、同一世代内の異質性を含む形に拡張されている。家庭内での世帯主と配偶者の労働供給に関する意思決定問題をモデル化したAttanasio et.al.(2008)、男女の結婚によるマッチングから家計を構築して男女間及び学歴間賃金格差を含めた幅広い異質性を明示的に取り扱ったHeathcote et.al.(2010)、教育政策と親から子への所得移転が教育投資とGDPに与える影響を分析したAbott et.al.(2013)などはその好例である。

しかし、これらのモデルでは世代間の遺産による移転や子育て・介護などを通した時間による移転が取り扱われておらず、またNTAという、明示的に世代間移転を捉えるための枠組みを用いていない為、様々な政策が私的移転(金銭的+時間)の変更を通して世代間移転に関してもつ総合的なインプリケーションを導き出せていない。本研究では明示的に世代重複モデルの家計行動部分に、結婚、出産、子育てや介護などを組み込み、このモデルを、パネルデータを用いて実証分析するだけでなく、さらにNTA分析へと繋げ、世代間移転に関してもつ総合的なインプリケーションを導きだすところに独創性がある。

こういったミクロ実証研究は、上で議論したとおり、現在正に最先端の研究が続けられているところであり、本研究はその流れの中で日本のデータを用いるというだけでなく、新たに子育てや介護を通して行われる家族内移転や遺産を加えて分析すること、企業の労働需要を考慮すること、さらに消費内容の違いを反映させる年齢別の価格指数を作成することで、さらに押し進めようとするものである。

我々はさらに、その結果をNTAと結合することにより、様々な政策が各世代の私的・公的移転に関してもつ総合的なインプリケーションを引き出す枠組みを構築する。このような研究は国際的にも初めての試みであり、研究が順調に進展するならば、各国で利用可能な標準的な少子高齢化分析ツールとして用いることが可能となる。国際的に進展する少子高齢化社会において、国内だけでなく、国際的にも意義は大きい。

例えば、公的医療負担を減らす目的で高齢者に対する自己負担を増やす場合、高齢者の多様性を考えると反応は様々であろう。そもそも健康な個人、あるいは資産の多い高齢者の行動にはさほどの影響はないと考えられる。しかし、健康に自信のない高齢者がそれほど資産を持っていなければ、若い世代への移転を減らすであろう。このような行動の変化はそれぞれの個人がどのような家族関係にあるかによっても異なるであろう。日本では先に見たとおり平均的に80歳まで他の世代に私的移転が行われていることを思い出して頂くと、この影響を受ける若い世代は少なくはない可能性がある。健康状態、家族関係など多様な個人の状況を捉えたミクロデータに基づいた新たな枠組みではこのような様相を明らかにできる。

また、公的移転と私的移転による世代間移転は世代内経済格差にも影響を与える。両親や祖父母の所得や資産が多ければ、子供は消費だけでなく教育投資や遺産といった様々な形で恩恵を受けることが出来る。教育資金に対する贈与税の非課税制度は記憶に新しい。一方で、奨学金制度を使って大学進学をしたものの就職活動が上手くいかず、返済が困難になっている若者の存在が指摘されている。同一世代内でも公的移転や私的移転の影響の受け方は様々であり、当然、個人の反応は富裕層と貧困層で変わってくる。その影響を分析するためには、ミクロパネルデータに基づく分析とそのマクロ的結合が必要になる。

別の例として、保育所の充実、育児休暇の充実などにより、女性の労働参加が増えたとする。この影響により、祖父母世代に孫との私的な労働のトランスファーとしての介護サービスが公的な介護サービスとして顕在化する可能性がある。

さらに,これまでの研究では,移転の名目値を実質値に変換する際に,各世代に対して共通のデフレータを適用してきた。しかし,例えば,若年層と高齢層では消費内容が異なる。さらには,同じ商品を買うにも高齢者は近い店で間に合わせることが多く,その価格は郊外の大型店より割高かもしれない。こうした点を踏まえれば,各世代に共通のデフレータを適用するというこれまでの手法は適切でない。本研究では,各世代に固有のデフレータを推定し,それを用いて実質化するというアプローチをとる。

本研究の必要性

世界最速で少子・高齢化が進む日本では、社会保障財政が急速に悪化し、現行制度の維持可能性に強い疑念が生まれている。改革が叫ばれて久しいが抜本的な改革は行われていない。その原因は,この問題への科学的アプローチが欠落している点にある。すなわち,少子・高齢化対策や社会保障論議は、実態を十分把握しないままに、マクロレベルでの財政収支尻の議論に終始している。しかしマクロの分析では実態を解明できない。偏りなく集められた大規模パネルデータセットを用いたミクロのレベルの分析によって現状を正確に認識することが不可欠であり、それができて初めて科学的な実証分析に立脚した解決策を提示できる。本研究のターゲットはそこにある。

本研究では世代間移転の様相を捉える枠組みであるNTAが抱えるいくつかの根本的問題を解決する。即ち、個人の健康状態、家族関係、経済状態などの多様性による世代間移転の様相の違いを捉えつつ、政策変更に対する個人の反応を織り込んで政策分析が行い得る枠組みとしてNTAを再構築する。これにより,年金支給年齢の引き上げといった政策変更が人々の行動をどのように変化させ,それによって当該世代だけでなく他の世代も含めた包括的な世代間の所得・富の移転がどう変化するかを所得レベルの違いだけでなく、家族関係、健康状態の違いによる変化の違いまで含めて科学的に予測できるようにする。こうした科学的で信頼に足る分析結果を国民に提示することにより,問題解決への道筋を明らかにしていく。

例えば、年金受取り年齢の変更や受取額の変更の影響を考えてみよう。賃金の低い若年労働者は親から私的移転を受けている可能性が高い。従って、直接影響を受ける世代を親として考えた場合、その子供である若年世代へも影響する可能性がある。また、直接この政策の影響を受ける世代を子供として考えた場合、その親が所得移転や介護を受けているなら親の世代も影響を受ける可能性がある。即ち公的移転と私的移転の三世代への影響を総合的に分析して政策評価を行なうことが重要である。本研究は、NTAフレームワークと世代重複モデルの強みを活かす形でそのような枠組みを創成する。若年労働者の雇用問題とそれに伴う公的移転・私的移転の影響は、結婚や出産の問題にも直結する。財政問題を考えるには年金と介護の両者を同時に考える必要があり、これらを総合的に捉える枠組みは日本経済の将来を分析する上で重要になる。

重要なポイントは、この例に留まらず、様々な政策に対する多様な家計や企業の反応を織り込んだ政策評価は、世代間の私的・公的両面にわたる所得・資産の再配分への影響を含めて総合的に行うことが必要だ、ということである。我々はそのような分析を可能とする、多様性を許容しつつルーカス批判に答え得る新たな枠組みを創成する。ここで開発する分析の枠組みはNTAとパネルデータが利用できる、主要国のほぼ全てをカバーする各国で利用できることから、本研究の国際的な意義は大きい。

プロジェクトメンバー

研究代表者

市村英彦   東京大学   経済学研究科 教授:ichimura@e.u-tokyo.ac.jp

 

研究分担者

臼井恵美子 

一橋大学 経済研究所  教授:usui@ier.hit-.ac.jp  

 

奥村綱雄

横浜国立大学 国際社会学研究院 教授:okumura@ynu.ac.jp

 

川口大司

東京大学  経済学研究科 教授:kawaguchi@e.u-tokyo.ac.jp

 

北尾早霧

東京大学  経済学研究科 教授:skitao@e.u-tokyo.ac.jp 

 

澤田康幸

東京大学  経済学研究科 教授:sawada@e.u-tokyo.ac.jp

 

清水谷諭

中曽根平和研究所 研究部 研究員:sshimizutani@gmail.com

 

松倉力也

日本大学 経済学部 准教授:matsukura.rikiya@nihon-u.ac.jp

 

山口慎太郎

東京大学 経済学研究科 教授:syamaguchi@e.u-tokyo.ac.jp

 

山田知明

明治大学 商学部 教授:tyamada@meiji.ac.jp

 

渡辺努

東京大学 経済学研究科 教授:watanabe@e.u-tokyo.ac.jp 

 

連携研究者

石崎達郎

東京都健康長寿医療センター研究所 研究部長

 

植田健一

東京大学 経済学研究科 准教授

 

大森裕浩

東京大学 経済学研究科 教授

 

大湾秀雄

早稲田大学 政治経済学術院 教授

 

小塩隆士

一橋大学 経済研究所 教授

 

加藤賢悟

コーネル大学   准教授

 

近藤克則

千葉大学 予防医学センター 教授

 

近藤尚己

東京大学 医学系研究科 准教授

 

下津克己

東京大学 経済学研究科 教授

 

菅原慎矢

東京理科大学 経営学部 准教授

 

鈴木通雄

東北大学 大学院経済学研究科 准教授

 

田中隆一

東京大学 社会学研究所 教授

 

中嶋亮

慶応義塾大学 経済学部 教授

 

中田大悟

経済産業研究所 上席研究員

 

野口晴子

早稲田大学 政治経済学術院 教授

 

橋本英樹

東京大学医学系研究科 教授

 

松島斉

東京大学 経済学研究科 教授 

 

山田浩之

慶応義塾大学 経済学部 教授

 

渡辺公太

東京大学 経済学研究科 特任研究員 

 

グリフェン・アンドリュー

東京大学 経済学研究科(研究院)准教授

 

シム・スンギュ 

青山学院大学 国際政治経済学部 国際経済学科 准教授

 

ファビンガー・ミハル

東京大学 経済学研究科(研究院)特任講師  

   

プロジェクト特任教授・研究員

小川直宏   日本大学 名誉教授:ogawa.naohiro@nihon-u.ac.jp ※2019年度まで東京大学経済学研究科 特任教授

深井太洋 東京大学 経済学研究科 特任研究員 

 

研究支援スタッフ

土井智恵子

笹川千恵子

前橋礼美

ムスリン・イーリャ

 

リサーチアシスタント

1寺田和之     東京大学大学院経済学研究科 博士課程  

2金澤匡剛     東京大学大学院経済学研究科 博士課程  

3大垣良太     東京大学大学院経済学研究科   博士課程  

4原湖南        東京大学大学院医学系研究科   博士課程  

5小松功拓    東京大学大学院経済学研究科   修士課程  

6鳥谷部貴大 東京大学大学院経済学研究科 修士課程  

7片山由将     東京大学大学院経済学研究科 修士課程  

8Zejin Shi     東京大学大学院経済学研究科  修士課程  

9池田将人     東京大学農学部

10.柴田真宏     東京大学経済学部

11.八下田聖峰  東京大学経済学部

12.柳本和春     東京大学経済学部

13.石幡祐輔     東京大学経済学部

14.黒川洸洋     東京大学経済学部

15.高橋雅士     東京大学経済学部

16.坪田大河     東京大学経済学部

17.辺見裕樹     東京大学経済学部